事業承継型M&Aとは?中小企業を悩ませる事業継続の課題と対策を解説


企業が長く存続するためには、事業を発展させ、後継者を探すことが必要です。しかし実際には多くの課題があり、廃業を迫られる中小企業の経営者も少なくありません。

そこで近年、事業承継を目的としたM&Aへの注目が高まっています。今回は、事業承継型M&Aの需要が高まっている理由と、今後の課題について解説します。中小企業が抱える問題と社会背景を理解し、M&Aのトレンドを押さえておきましょう。

企業存続のための事業承継とは?
事業承継型M&Aの需要が増えている2つの理由
├ 後継者不足のため
└ M&Aで企業を発展させるため
日本企業における事業承継の課題と対策
├ 経営改善の計画が立てられていない
├ 事業承継の理解不足
└ 国の制度や窓口を活用できていない
事業承継型M&Aの成功が企業の存続につながる

企業存続のための事業承継とは?

事業承継とは、企業を存続させるために経営権や資産などを後継者に引き継ぐことです。以前は、経営者の親族に引き継がれる傾向にありましたが、最近は社内の幹部や第三者への事業承継が多くなっています。

そして、事業承継型M&Aとは、企業を存続させるにふさわしい第三者に事業を引き渡すことです。従業員の雇用を守り、自社の技術や資産などを引き継ぐことができ、さらに企業の発展につながるメリットがあります。

事業承継型M&Aの需要が増えている2つの理由

事業承継型M&Aは、近年需要が高まっています。帝国データバンクが2020年に行った「事業承継に関する企業の意識調査」によると、37.2%の企業が事業承継の手段として今後5年以内に「M&Aに関わる可能性がある」と答えています。以前は、親族内承継が中心でしたが、第三者へのM&Aの需要は増加しているといえるでしょう。

なぜ事業承継型M&Aの需要が増えているのでしょうか。ここでは、2点解説します。

後継者不足のため

事業承継目的のM&Aが増えている理由として、後継者不足が挙げられます。

東京商工リサーチが2020年に行った調査によると、企業の後継者の不在率は57.5 %となっています。また、代表者の年齢層は、60代が40.4%、70代が29.1%、80歳以上が23.5%です。高齢の経営者でも、後継者不在の企業は少なくないことが分かります。

また、同じく東京商工リサーチの調査では、2020年の1月から8月にかけて3万5,816件の企業が休業・廃業や解散に追い込まれています。

このように、企業の後継者不足により休業・廃業となる企業が多いため、事業を引き継いでもらう手段としてM&Aが選択されているのです。

M&Aで企業を発展させるため

M&Aを行うことで、企業の存続や発展につながることも需要増加の理由です。外部の経営ノウハウを活用でき、新たな情報や体制、人材も取り入れられるでしょう。

親族や社内での承継ではなく、外部へ経営を委託すれば、より客観的な視点で経営の長所や短所を分析できます。よって、企業内部の人が気づかない部分まで改善できるため、効果的な手段といえます。

例えば、適材適所の人材配置や、新たな方面からの資金調達などが考えられるでしょう。これにより、後継者不足や人材不足、資金不足を解決でき、事業継続につながります。

また、新しい事業にも挑戦可能です。M&Aで自社にはない「人、モノ、情報」を手に入れ、不足している経営資源と自社の資源を組み合わせることで、新規事業立案が可能です。

そして、企業の成長につながるエキスパートを取り入れることも可能です。例えば、IT企業であれば、専門性の高いエンジニアを獲得でき、Web系の企業であれば、トップマーケターの獲得につながるでしょう。

日本企業における事業承継の課題と対策

事業承継型M&Aでは、人や知的財産、株式などが承継可能です。そして近年、上記で述べたような理由から需要が高まっています。

しかし、日本企業の事業承継には複数の課題があります。事業承継の方法を明確に理解していなければ、経営状況が悪化し、最悪の場合は結局廃業に至るかもしれません。

ここでは、事業承継の課題点と対策について、3点ご紹介します。

経営改善の計画が立てられていない

事業承継の課題として、企業の経営改善が不十分である点が挙げられます。収益が低迷している場合、企業の価値が下がり、低い金額でしか売却できなくなります。そもそも事業承継できない可能性もあるでしょう。

そのため、経営改善計画を立てる必要があります。方法としては、以下の2点です。

● 決算書を用いて収益性分析を行う
● SWOT分析を活用する

まずは、企業の経営状況を知る決算書分析が重要です。その中でも収益性分析に着目しましょう。これは、投下した資本に対してどのくらいの収益を出しているかを分析する手法です。金額ではなく、比率を確認していきます。

例えば、ROE(自己資本利益率)は以下の計算式で算出可能です。数値が高いほど、経営効率がよいと判断されます。

(当期純利益 ÷ 自己資本)×100=自己資本利益率

このように、自社の利益率を再確認することで取れる選択も変わってくるため、有益な分析といえるでしょう。

また、SWOT分析の活用でも経営改善が可能です。SWOT分析は、企業の強み、弱み、機会、脅威の要素から現状の課題を整理できます。例えば、強みであれば、独自の技術や優秀な人材、弱みであれば、製品価格が高いといった点が挙げられます。

自社の経営状況を客観的に分析して改善に取り組めば、企業の価値を高めたうえで事業承継に臨めるでしょう。

事業承継の理解不足

事業承継に対する理解不足も課題として挙げられるでしょう。理解不足は失敗を招くため、十分な情報を集めて理解する必要があります。その方法を2点解説します。

事業承継を行う際には、複雑な手続きが必要なため、専門的な知識を持っている企業への依頼がおすすめです。

事業承継を行う際には「デューデリジェンス」(買い手が売り手に行う詳細な調査)が行われます。専門業者へサポートを依頼すれば、調査に対する準備から契約まで任せることが可能です。

具体的には、事業承継センター株式会社や株式会社M&A総合研究所などがあります。このような専門業者へ依頼することで、専門的な知見を活用し、事業承継成功へつなげられるでしょう。

また、事業承継のマッチングサイトの活用も可能です。例えばTRANBIのようなマッチングサイトを活用すれば、効率的に事業承継の相手を探せます。事業承継未経験でも売却できるため、安心して利用できるでしょう。

国の制度や窓口を活用できていない

国の制度・窓口の活用不足も課題として挙げられます。事業承継型M&Aを行う際に、活用できる制度・窓口は以下の通りです。

● 事業承継・引継ぎ補助金
● 事業承継・引継ぎ支援センター

事 業承継・引継ぎ補助金は、事業承継型M&A等にかかる費用などを支援する補助金です。補助率としては、2022年7月時点で、補助対象経費の3分の1以内であり、上限額は600万円以内となっています。事業承継には多くの資金が必要になるため、国の制度を最大限活用するとよいでしょう。

事 業承継・引継ぎ支援センターでは、事業承継に関する相談ができます。例えば、事業承継計画の立案や譲渡企業を見つけるマッチング支援も行っています。専門家派遣を行わない限り費用の発生もないので、気軽に相談ができるでしょう。

事業承継型M&Aの成功が企業の存続につながる

事業承継型M&Aは、昨今の後継者不足の解決や企業の存続のために必要な手段といえます。

事業承継を行う際には、あらかじめ企業の経営を分析・改善し、事業承継の専門家へ依頼したり、国の制度や窓口を活用したりすることがポイントです。

このように最近話題となっている事業承継型M&Aの課題点、対策を知ることで、ビジネスに活かしましょう。