経営トレンドである人的資本経営を解説!注目の理由と国の動向をご紹介

昨今耳にする機会の多い人的資本経営とは、どのような経営手法なのでしょうか。

今回は、人的資本経営の内容が詳しくわからない方に向けて、内容や背景、日本の動向などを解説します。

本記事を読むことで、今後普及していく人的資本経営の理解が可能です。人的資本経営について把握し、企業選びの参考にしましょう。

昨今の経営トレンドである人的資本経営とは?
├ 従来の経営方法との違い
└ 人的資本経営が求められる3つの理由
日本における人的資本経営の状況
├ 人的資本経営に関する国の動向
└ オムロン株式会社の事例
人的資本経営を理解して、企業選択につなげる

昨今の経営トレンドである人的資本経営とは?

人的資本経営とは、人材を経営に関わる資本としてとらえる経営のあり方です。言いかえると、社員の知識やスキルを投資対象とみなす考え方です。

昨今、人的資本経営は海外での認知率が高くなっています。国際標準化機構(ISO)では、企業の人的資本の貢献と透明性向上のため、ISO30414(人的資本に関する情報開示のガイドライン)を定めました。また、企業に対しコンプライアンスやダイバーシティなどのガイダンスを明記しています。

さらに、日本における人的資本経営の理解度は、上昇しているといえるでしょう。パーソル研究所が2022年5月27日に公開した「人的資本情報開示に関する実態調査」によると、上場企業の役員層・人事部長の人的資本経営の理解度は、75.8%とされています。しかし、具体的指針の理解度は、「SASBスタンダード」は15.3%、「国際統合報告フレームワーク」は19.7%と低い傾向にあります。

従来の経営方法との違い

従来の経営と人的資本経営は、従来の経営は人を資源と見なし、人的資本経営は、人を資本とみなしている点が異なります。また人的資本経営は、新たな価値を生み出すために社員の自立性を育てる方針をとっています。

そして従来の経営では、人材育成を経験に基づき行っていました。しかし、人的資本への投資は経営に関わるため、社員教育や育成のデータを収集して、効果を発揮する人材育成が求められるでしょう。

例えば、以下のように人材育成手段として人材育成のデータを取り、ROI(投資した資本に対する効果)を意識する必要があります。

  • (利益÷投下資本)×100%=ROI

このように、人材育成にかかる費用や利益率を計算して、効力のある人的資本の活用が可能です。

人的資本経営が求められる3つの理由

人的資本経営が求められる理由は、以下の通りです。

  • 多様な働き方の増加
  • ESG投資の浸透
  • 市場の技術的成熟

まずは、多様な働き方の増加です。現在、テレワークや時短勤務など従来の働き方に変化が起こっています。従来通りの統一した経営スタイルではなく、個人のさまざまな働き方に合わせる経営が求められるでしょう。

さらに、ESG投資の浸透も理由の1つです。ESG投資とは、「環境(Environment)」「社会(Social)」「ガバナンス(Governance)」の3つの要素を考慮して投資する手法です。人的資本は、「社会」と「ガバナンス」にあたり、人材への投資率を企業が評価されます。そのため、投資家から人的資本への投資情報の公開を求められています。

そして、市場が技術的に成熟したことも人的資本経営が求められている理由です。現在、IT企業では、AIといった業務の最適化ができるテクノロジーの開発を行っています。あらゆる企業のテクノロジーが発達すると、技術力だけでは他社との差別化ができないのです。そのため、革新的なアイデアや創造性を発揮してオリジナルな価値を作り出す人材が必要になります。クリエイティブな人材を増やすために、人的資本経営が必要となるのです。

日本における人的資本経営の状況

人的資本経営は、日本での導入率が低い傾向にあります。しかし、日本企業にとって以下のメリットがあるため、導入の検討が求められるでしょう。

  • 投資対象になる
  • 企業価値向上につながる

まずは、人的資本経営の導入により、投資対象になる可能性があります。ESG投資の普及で、人材投資している企業は、投資対象として選ばれやすくなります。それにより、企業が成長するきっかけになるでしょう。

また、企業価値向上も挙げられます。社員への投資により、スキルアップやモチベーションアップにつながります。企業全体の生産性向上や離職率低下にもつながり、結果として企業価値が向上するでしょう。

このように、人的資本経営のメリットは大きいですが、導入にあたり「従業員のスキルを把握していない」といった課題があります。そのため、日本での導入は、慎重な検討が必要です。

ここでは、今後人的資本経営の導入につなげる国の動向と、実際に導入しているオムロン株式会社の事例をご紹介します。

人的資本経営に関する国の動向

経済産業省は令和2年9月に「人材版伊藤レポート」で、人的資本経営を成功させるための方法を解説しています。

ここでは、人材版伊藤レポートの中で、「3つの視点」を解説します。

  • 経営戦略と人材戦略の連動
  • 経営戦略と人材戦略のギャップの調査
  • 企業文化への定着

まずは、経営戦略と人材戦略の連動です。つまり、経営戦略を達成する人材戦略が必要とされます。方法として、適正な人材獲得や育成につなげるために、経営課題の把握が重要です。また、最高人事責任者を設置して人事と経営の連動を柔軟にできる仕組みづくりが求められるでしょう。

経営戦略と人材戦略のギャップの調査も重要です。ギャップの調査方法は、人材戦略施策を把握し、KPI(重要業績評価指標)を設定する必要があるでしょう。さらに、目標ごとにあるべき姿を確認して、現在の姿とのギャップを確認します。その後、戦略を立てPDCAを回してあるべき姿へ近づけていきます。

最後に、企業文化への定着が必要です。人的資本経営を行うには、全社員が企業文化や人材戦略を理解し納得する必要があるためです。具体的には、企業理念の具体化を行い、社員に価値観を理解してもらう方法があります。さらに、社内研修をして意識改革を行う方法も挙げられるでしょう。

オムロン株式会社の事例

オムロン株式会社は、人的資本経営に関する情報開示と人材開発投資を行っています。理由は、オムロンで働く人の人権が尊重された職場環境を作るためと、社会の変化に備えて成長を持続させるためです。

オムロンは、情報開示としてサステナビリティ目標を記載しています。また、社員の能力を高める投資にも力を入れています。

  • 人権侵害リスクの予防
  • DXスキル獲得やリーダーの育成
  • 女性管理職と障がい者雇用の増加

オムロンでは、人的資本経営の取り組みとして、人権侵害リスクの予防を目標としました。その結果、自社の社員だけでなく、派遣会社や委託先職員に対しての運用を達成しています。

また、個人の能力を強化する投資も行っています。例えば、DXスキルを獲得させ、海外に派遣してリーダー育成などの人材育成に積極的です。

そして2024年までに、女性管理職比率を18%以上、海外28拠点での障がい者雇用の実現を目標としています。これにより、さまざまな社員が働ける環境を創り、革新的な企業を目指しています。

人的資本経営を理解して、企業選択につなげる

人的資本経営とは、人材を資本として捉える経営のあり方です。人的資本経営が話題となっている理由は、働き方の多様化やESG投資の浸透、市場の技術的成熟が挙げられます。

そして日本でも、国が人的資本経営の取り組み方を指し示す「人材版伊藤レポート」を公開したり、企業が人的資本経営を取り入れたりなど今後の浸透が期待できるでしょう。

人的資本経営の概要や求められる理由、今後の動向を把握して、企業選びの参考にしましょう。